・独ライプツィヒ大学グリンデマンらのチームは、鉄が皮膚に接触することによって感じる金属臭が人体臭の一種であることをつきとめた。
・鉄イオン(Fe2+)を含む溶液を手のひらに接触させる、もしくは金属鉄を人工の汗で湿らせることにより発生するにおいを細かく分析した。
・独特のにおいはFe2 +イオンが触媒の働きをするために人の皮膚についている脂肪性化合物を分解して金属臭として知覚される臭気のある揮発性有機物を発生させることが原因であることが分かった。
・この反応は数秒以内に完了するために、触った直後に匂うのは「金属そのもの」であるという感覚的な錯覚を生み出すとされている。
~この記事のキーワード~
におい, 金属, 触媒反応, 有機化学, ガス分析
「僕の血は、鉄の味がする……」

校庭の鉄棒、鉄製の工具など・・・
触った直後の手からなかなかとれない、あの独特の臭い。
実は、 鉄がにおいの原因ではない ことを知っていましたか??
口の中を切ったり、鼻血が出たりした時、私たちは “血のにおい” を感じとります。
血液は鉄イオンを含んでいますので、そのにおいかと思ってしまいますが、実際には鉄が直接臭っているわけではないそうです。
では、これはいったい何のにおいなのでしょうか?
“血のにおい“ の正体は??

臭いがする化合物というのは、多くの場合適当な分子量を持った有機化合物です。
しかしこれは考えてみれば不思議なことです。
臭いを感じるということは、化合物が揮発して鼻の感覚細胞に付着して初めて起こることですが、沸点1535度の鉄がそう簡単に揮発するはずもありません。
ではあれはいったい何の臭いなのでしょうか?
ドイツ ライプツィヒ大学のグリンデマンらのチームがこの謎の解明に挑みました。
研究チームは、鉄イオン(Fe2+)を含む溶液を手のひらに接触させる、もしくは金属鉄を人工の汗で湿らせることにより発生するにおいを細かく分析したところ、あの独特のにおいはいずれの条件においても確認されました。
どうやら、1-オクテン-3-オンなどの異臭の元になる化合物が発生していることがわかりました。
ただし、ただし、Fe3+水溶液では金属臭が発生しませんでした。
さらに、研究者の1人の血液を自分の皮膚にこすりつけた結果、上記の実験と同様の金属臭と同じ臭気物質が発生することが確認されています。
血中のヘモグロビンが鉄分を多く含むため、においを発生させる化学反応に作用したと考えられます。
皮膚に含まれる汗(酸性)は鉄金属を腐食して反応性のFe2+イオンを形成しますが、これが触媒の働きをするために人の皮膚についている脂肪性化合物を分解して金属臭として知覚される臭気のある揮発性有機物を発生させます。
この反応は数秒以内に完了するために、触った直後に匂うのは「金属そのもの」であるという感覚的な錯覚を生み出します。
なお、酸化されてFe3+イオンになると触媒機能がなくなるのでそれ以上接触してもにおいを放つことはありません。
鉄が皮膚に接触することによる金属臭は、驚くべきことに人体臭の一種だったのです。
.jpg)
なるほど、言われてみれば臭いがするのは鉄さびを握りしめた手であって、鉄棒そのものや新しい鉄板を握った手はさほど臭いわけでもなかったような気がします・・・。
.jpg)
実はこういうケースは他にもあるんだ。
例えばプールの「塩素の臭い」というのは実は塩素そのものではなく、皮膚から水中に溶け込んだ尿素が塩素と反応してできたクロラミン類の発する臭いなんだ。
せっけんで手を洗う時にぬるぬるするもせっけんそのものではなく、そのアルカリ性によって溶け出した皮膚の成分の感触なんだよ。
「僕の血は、“鉄分と汗によって皮脂が分解してできた有機混合物“の味がする……」
どうやら、科学的にはこう言ったほうが正しいようです。