昆虫界の最硬王子!!車に轢かれてもつぶれない甲虫、コブゴミムシダマシの秘密

材料

・米カリフォルニア大学アーバイン校の David Kisailus 教授ら率いる国際研究チームは、自動車に踏まれても潰れないコブゴミムシダマシの甲虫外骨格の頑強性の要因が、接合部の構造、内部のミクロな層状構造、構成物質によることを明らかにしました。

・外骨格接合部の構造を模倣したバイオミメティック構造体を作製し、部材を強固に接合できることを実証した

・頑強かつ軽量な部材のデザインとして、飛行機やロケットなどの航空宇宙産業をはじめとする材料開発分野での応用が期待される


~この記事のキーワード~

バイオミメティクス, 昆虫, 材料開発, 異種材料接合, 航空宇宙産業

車に轢かれてもつぶれない甲虫、「コブゴミムシダマシ」


アメリカ カリフォルニア大学アーバイン校の David Kisailus 教授 (東京農工大学グローバルイノベーション研究院・教授(兼任))ら率いる国際研究チームは、”自動車に踏まれても潰れない” ほどの頑強な外骨格を持つことから、“鋼鉄で武装した甲虫“と呼ばれるコブゴミムシダマシのボディ (外骨格) の構造、組成と機械特性の詳細な解析を行い、今まで知られていない特殊な構造の存在と、そこから生まれる頑強性の機構を明らかにしました。

本研究の成果は、今後、頑強かつ軽量な材料の開発や異種材料の接合部分のデザイン設計等への応用が期待されます。

本研究成果は、2020年10月21日付のNatureに掲載されました。

Toughening mechanisms of the elytra of the diabolical ironclad beetle - Nature
A jigsaw-style configuration of interlocking structures identified in the elytra of the remarkably tough diabolical ironclad beetle, Phloeodes diabolicus, is us...


コブゴミムシダマシっていったい何もの?!

コブゴミムシダマシ は南カリフォルニアの乾燥した地域に生息する体長3cm程の小さな虫です。

カブトムシやクワガタと同じ甲虫類に属しています。

翅(はね)をもっていないので飛ぶことができない代わりに、車にひかれて生き残ることができる頑丈な体を持っています。

捕まえて標本箱に固定するためにピンを刺そうとしても、体が硬すぎるので普通のピンでは刺すことができない・・・と多くの昆虫学者たちを困らせてきたという話もあるそうです。

ペン太くん
ペン太くん

バッタの皮膚はやわらかいけど、クワガタやカブトムシの皮膚はなんでかたいの?

しろくま先生
しろくま先生

バッタは緑色だよね。だから、草の中でも目立たず、意外と天敵である鳥などからも見つけづらいんだ。でも、カブトムシやクワガタは黒光りしているから、ちょっと目立つ。自分の身を守るために、少しぐらい鳥につつかれたり、爬虫類に噛みつかたりしても平気なように自分の体を硬くしてるんだ。

ペン太くん
ペン太くん

生活の仕方の違いが体の違いに関係してるんだね!

ペン兄さん
ペン兄さん

他にも硬いことは何かメリットがあるんですか??

しろくま先生
しろくま先生

乾燥に強いということだね。実際に、砂漠に繁栄している虫にも多くの甲虫類がいるんだよ。

ペン太くん
ペン太くん

確かに、サソリとか硬そう!!

しろくま先生
しろくま先生

このコブゴミムシダマシという昆虫は、普段は木の皮の下などに生息しているんだ。体をコンパクトに硬くすることによって、狭いところや隙間にどんどん潜り込んでいくことができるよ。

ペン兄さん
ペン兄さん

自然界の厳しい環境で生き延びるために、少しずつ進化していったんですね!



生物から材料のデザインを学ぶ!バイオミメティクス技術

自動車や航空機等の利用に向けた材料開発においては、省エネに繋がる軽量で頑強な新素材とデザインが求められています。

生物が持つ構造や機能から材料のデザインを学び、模倣する技術は「バイオミメティクス」と呼ばれています。

↓↓↓「バイオミメティクス技術」に関係する記事はこちら!!↓↓↓


甲虫は地球上に 35 万種以上が存在し、自然界の厳しい環境に適応するため、進化の過程で多様な構造や物性を持つ外骨格を発達させており、新しい材料デザインの宝庫として着目されています。

今回研究グループは、このコブゴミムシダマシに着目しました。

すでに説明したように、この甲虫は頑強な外骨格を持っていることで有名ですが、なぜ外骨格がそんなに頑強なのか、という要因は明らかにされていませんでした。


先端技術で世界最硬級の鎧を身にまとう甲虫の謎に迫る!!

米カルフォルニア大 Kisailus 教授ら率いる国際研究チームは、基礎となる材料構成の観点からどうしてこの外骨格がそれほど強靭なのかに関して包括的に調べることにしました。

実際に、コブゴミムシダマシの外骨格の強度・耐久性を調べたところ、自重のおよそ4万倍(!!!)となる荷重に耐えうることが明らかとなりました。

さらに、外骨格の破壊の様子を観察することにより、外骨格を構成する層状の構造が頑強性に重要な役割を果たすことがわかりました

そこで、外骨格のミクロ構造と構成成分の詳細な解析を行ったところ、甲虫の表皮はキチン(地球上において 2 番目に多く存在する生体高分子)とタンパク質を主成分としており、これらから構成される繊維の束が積み重なることで、規則的な層状構造を形成していることが分かりました。

また、走査型電子顕微鏡および X線CTスキャンを用いて外骨格の断面・内部構造を細かく観察してみると、外骨格の接合部においてパズルのピースのようにかみ合った凹凸構造が見つかりました。

このような凹凸構造は、他の甲虫種では1対だけなのに対して、コブゴミムシダマシは 2対持つことが明らかになりました。


A) 頑強な外骨格を持つ「コブゴミムシダマシ」の写真。B) 外骨格断面の走査型電子顕微鏡画像。多数の層が積み重なった層状構造をなしている様子が観察される。C) 外骨格接合部断面の光学顕微鏡画像。黄線は接合している 2対の外骨格間の凹凸構造の境界線を表している。D)他の甲虫種の外骨格接合部。1 対の凹凸構造が見られる。 Credit: 東京農工大学 新垣准教授


↓↓↓カリフォルニア大学による検証動画(YOUTUBE)↓↓↓

Compression Resistant Ironclad Beetle


さらに、外骨格に含まれる有機物の組成の解析を行ったところ、異種の甲虫であるニホンカブトムシと比べて、タンパク質の割合が約 10%多く含まれていることがわかり、この組成が外骨格の頑強性を与えていることが考えられました。

また、本研究で明らかとなった特殊な構造の形成にもタンパク質が関与することが考えられました。

自然界の厳しい環境の中で進化する過程で、このような特殊な構造や組成を持つ外骨格を発達させてきたことが考えられるそうです。


コブゴミムシダマシの外骨格構造を模倣して異種材料接合を実現!航空宇宙産業などに応用!

さらに本研究では、カーボンシートを用いて コブゴミムシダマシ の外骨格接合部にみられる2 対の凹凸構造を模したバイオミメティック構造体を作製し、異なる種類の材料をつなぎ合わせて材料を作製することでその有効性について評価しました。

その結果、作製した材料は現在利用されている航空宇宙用接合材と比較して破壊に対する回復力と弾性に優れた機能を持っていることが明らかになりました。

例えばプラスチックと金属など、異なる種類の材料をつなぎ合わせる異種材料接合の技術は、飛行機やロケットなどの航空宇宙産業においては特に重要なものです。

本研究で見出された甲虫の外骨格の構造は、自動車や航空機などの様々な分野での高強度・軽量材料のデザイン設計に応用することができると考えられます。

さらには、外骨格の強度に関わる構造のみならず、乾燥環境下での水分の輸送・蓄積やエネルギー吸収に関わると考えられる微細構造を発見したそうです。

今後、ミクロ構造のさらなる解析を進めることで、コブゴミムシダマシ の生態の解明や多機能性材料への応用が考えられます。

また、外骨格の主要構成成分であるタンパク質の解析を進めることで、外骨格の形成機構の解明に繋がることが期待されます。

他にもある!甲虫が硬くなれる秘密

産業技術総合研究所の深津武馬主席研究員(生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループ)のグループは、甲虫の中でも特に固いクロカタゾウムシの謎に迫っています。

クロカタゾウムシの硬さの秘訣は、コブゴミムシダマシとはまた違うところにあるようです。

体の中に「ナルドネラ」という共生細菌がいて、体を固くするような材料を作ってくれるためそれで固くなっている、とのことです。

翅を固くするためにはチロシンというアミノ酸が多く必要で、それを作る能力を持った微生物を体の中に持っていて、そこからチロシンをもらって体を固くしています

実験でこの共生細菌の数を減らして飼育したところ、赤っぽい翅で柔らかいクロカタゾウムシが生まれたそうです。

しろくま先生
しろくま先生

ちなみに、クロカタゾウムシは、その名前からも想像できるように、硬さでいえばコブゴミムシダマシと世界一、二を争うほどなんだ。でも、硬くなるという防御パラメータに全振りした結果、自分でも硬くなりすぎて羽を開けることができなくなってしまったみたいなんだ・・・

ペン兄さん
ペン兄さん

(笑)それは何とも残念な昆虫ですね・・・。


今回の研究は、カリフォルニア大学アーバイン校の David Kisailus 教授 (東京農工大学グローバル研究院・教授(兼任))、Jesus Rivera 博士、パデュー大学の Pablo Zavattieri 教授、Maryam SadatHosseini 博士、東京農工大学の新垣篤史准教授、同大学院の村田智志氏、ローレンスバークレー国立研究所の Dilworth Y. Parkinson 博士、Harold S. Barnard 博士、テキサス大学サンアントニオ校の DavidRestrepo 博士のメンバーで構成される国際研究チームによって実施されたそうです。

参考資料

・東京農工大学 プレスリリース:“車に踏まれても潰れない虫 頑強なボディの構造と組成を解明”

〔2020年10月22日リリース〕車に踏まれても潰れない虫 頑強なボディの構造と組成を解明 | 2020年度 プレスリリース一覧 | プレスリリース | 広報・社会連携 | 大学案内 | 国立大学法人 東京農工大学
カリフォルニア大学アーバイン校のDavid Kisailus教授 (東京農工大学グローバルイノベーション研究院・教授(兼任))、同Jesus Rivera博士、東京農工大学工学研究院の新垣篤史准教授、同大学院の村田智志氏らの研究グループは、飛ばない甲虫の一種Phloeodes diabolicusのボディ (外骨格) ...


・東京農工大学 新垣篤史准教授 研究室WEBサイト(生命工学科 生命分子工学・海洋生命工学研究室 田中・新垣研究室)

東京農工大学生命工学科 生命分子工学 海洋生命工学研究室


・産総研-研究成果記事:“ゾウムシが硬いのは共生細菌によることを解明”

産総研:ゾウムシが硬いのは共生細菌によることを解明


・産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループ WEBページ

Fukatsu Laboratory
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