・NASAは、月の表面に水が存在しているという痕跡を世界で初めて観測した。
・地上約14kmの高度からSOFIAと呼ばれる世界最大の飛行型天文台によって観測が行われ、月の南半球に位置するクラビウス・クレーターで、赤外線領域での固有の振動波長をもつ水分子に由来する信号が検出された。
・1m3あたりペットボトル飲料水350ml分に相当する濃度の水が月表面に閉じ込められていることが明らかになった。
・この発見は、水が寒くて影のある場所に限定されず月面全体に分布している可能性を示しており、月面での長期滞在という人類の夢に、また一歩近づいた。
~この記事のキーワード~
宇宙開発, 極限環境下での反応現象, 月面基地
太陽光を使い、海水を30分で飲料水に変える技術

NASAは、月の表面に水が存在しているという痕跡を世界で初めて観測しました。
今回は、SOFIAと呼ばれる世界最大の飛行型天文台によって観測が行われ、地球から見える月の南半球(いつも私たちが見ている側)にあるクラビウスという大きなクレーターで水分子に由来する信号が検出されました。
クラビウスは、直径が225kmもある月面南半球側では最大級のクレーターです。
この発見は、水が月面全体に分布している可能性があり、寒くて影のある場所に限定されないことを示しています。
研究成果は、2020年10月26日に公開のNature Astoronomyに掲載されています。

もし、水を現地調達することができれば、月面での長期滞在も夢ではないかも?!
ほんとに月に水が存在するの?!詳細を解説します。
過去数十年にわたるNASAの熱き挑戦
今回のSOFIA観測の結果は、月の水の存在を調べた長年の研究に基づいています。
1969年にアポロ宇宙飛行士が最初に月から戻ったとき、月には水が全く存在しないと考えられていました。
しかし、NASAの人工衛星を使った月面クレーター観測やインパクタ衝突ミッション(探査機に積んだ金属などを爆薬で加速させ、月面に衝突させることで発生する噴出物を調査)等では、月の極地周辺のクレーターでいつも変わらず影になっている部分に氷が存在していることが確認されました。
このように、これまでの20年間の精力的な調査の結果、太陽光のあたる南半球地域でどうやら水が存在する可能性があるらしい、というところまではわかってきました。
ただ、それでも、存在形態が水なのか岩についている水酸基なのかを明確に区別することができずにいました。
いったいどうやって、水の存在を確かめたの??
ボーイング747-SPジェット旅客機を改造して3メートル近い直径を持つ赤外線望遠鏡が搭載されました。
そして地上から約14kmの高度で飛行しながら測定が行われたそうです。

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宇宙って、いったいどこからが宇宙なの??
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おおよその境目は地上から100kmあたりだと言われているよ。国際宇宙ステーションは地上から400㎞も高いところにいるけど、大体東京から大阪までの距離に相当するんだ。
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なーんだ、宇宙って思ったより近いんだね!!新幹線だと3時間もかからないもんね!!
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ただ、月に行くまでには約38万㎞あるから、さらに1000倍以上も距離があるんだ。

水分子は赤外領域で振動する固有の波長(約6μm: 1μmは1mの100万分の1)をもっています。
SOFIA望遠鏡の赤外線カメラを使ってクラビウスクレーター上に水分子が存在するかを確かめたところ、1m3あたりなんと100~412ppm(ペットボトル飲料水350ml分に相当!!)もの濃度の水が月表面に閉じ込められていることが明らかになったのです!!

そもそもなんで水が存在するの??
地球のように分厚い大気層がなければ、太陽に照らされた月面の水はすぐに蒸発して宇宙のかなたへ消えて無くなってしまうはずです。
しかしどういうわけか、そこには水があります。
何かによって水が生まれていて、何かにによって水が閉じ込められているに違いありません。
2013~2014年には、NASAは探査機(LADEE)を使って月を周回させ、「外気圏」と呼ばれる月の薄い大気の様子や組成を調べる調査を行いました。
得られたデータ分析結果によると、流星体の月面衝突によって水蒸気が噴き出す現象が数十回とらえられていたことがわかりました。
↓↓↓ この調査に関するYOUTUBE関連動画 ↓↓↓
したがって、水の生成・保存には、なんらかの作用が働いているはずです。
月で水が存在する要因(仮説1):水を含む微小隕石の月面衝突時に、ガラス構造中に閉じ込められる説
月の外気圏に存在する水は、微小隕石表面に化学吸着してヒドロキシ基(-OH)を形成している可能性があります。
ヒドロキシ基は水の生成に欠かせない原子集合体です。
少量の水成分を運んで月面に降り注ぐ微小隕石ですが、この衝突によって生まれた高熱からつくり出される土壌中のガラス構造に閉じ込められるのではないか、というのが研究チームの見解です。
実際、月面のほとんどの土壌は、微小隕石の衝突に由来するガラス成分が30%ほど存在し、残りは岩石と鉱物の破片で構成されているそうです。
これにより、たとえ太陽光があたった場所であってもガラス構造中に保護されるかたちになるので、水が安定して存在できるというわけです。
月で水が存在する要因(仮説2):太陽風で運ばれた水素と土壌中の酸素含有鉱物の化学反応によりできた説。
もう1つ説は、次の2段階プロセスで水ができるという説です。
① 太陽風によって運ばれてきた水素が、月面土壌中の酸素含有鉱物と化学反応を起こして表面にヒドロキシル基が生成する。
② 微小隕石による衝撃で発生する放射線により、ヒドロキシル基が水に変換される。
実際、2013年にアメリカ ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所とアメリカ地質調査所の研究チームは、月のクレーターの岩石からヒドロキシ基を検出しています。
↓↓ Nature Geoscience, 2013年の論文 ↓↓

どちらかというと、説1のほうが有力なようです。
研究チームによると、水が月の冷たい影のある領域に限定されず、月の表面全体に分布している可能性があるそうです。
今回見つかった水は、サハラ砂漠に存在する水分の100分の1程度と非常に少量ですが、この発見は水がどのように作られ、それが過酷で空気のない月面にどのように保存されるかについての新しい仮説を立てるための有力な証拠となりました。
現在NASAが着手している「アルテミス計画」
NASAは2019年5月に、2024年の有人月探査計画(アルテミス計画)を進めていると発表しました。
アルテミス計画で送られるのは男女2人で、もし成功すれば、月面に到達した宇宙飛行士として女性は史上初、男性は13人目という記録になります。
1969年に達成されたアポロ計画による月面着陸とは違い、今回の計画はあくまでも有人火星探査の実現に向けた1歩であるとしています。

今回発見された水が実際に利用可能かどうかはまだ分からない部分もありますが、月探査計画を進展させるには必要な材料になるはずです。
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水は月面で人々が活動するための重要な資源なんだ。宇宙飛行士用の飲料水としてはもちろん、宇宙船の燃料に応用することもできるよ。ただ、現時点では約1kgの水を地球から持っていこうとすると、120億もの費用がかかるといわれてるんだ。
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そんなにも高いの?!
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だから、なるべく現地で調達できるものは資源として使っていこう!という考えが広まっているよ。(専門的には、その場資源利用(ISRU)と呼ばれています。)月面の砂を固めて住居にしたりする構想もあるんだ。
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もし、水を現地調達することができれば、月面での長期滞在も夢ではないですね!!
↓↓↓ 今回の研究成果に関するYOUTUBE動画はこちら!! ↓↓↓
参考資料
NASAニュースリリース:NASA’s SOFIA Discovers Water on Sunlit Surface of Moon
