【月面基地建設】 おしっこが人類の未来を救う??【ジオポリマー×3Dプリント】

宇宙

・ノルウェー エーストフォール大の研究チームは、ジオポリマー技術3Dプリンティング手法を駆使して、月面基地建設のための実用的な手法を開発した。

尿素が、一般的にセメント作製時に使用されているナフタレン系高性能減水剤に匹敵する優れた特性を示すことが明らかになり、緻密で初期強度の高い壁を安定して作ることに成功した。

・理論的には、宇宙飛行士自身のおしっこと月面の砂を原料にして基地用のレンガを作ることが可能となる



~この記事のキーワード~
宇宙開発, 月面基地, ジオポリマー, 3Dプリンティング, 減水剤, 尿素, レオロジー

月面基地建設問題の救世主は、まさかの「おしっこ」?!

人類の持続的な生命維持のため、宇宙圏の領土獲得競争のため、各国が月面移住計画を急ピッチで進めています。

月に住むには、高い放射線レベル、極端な温度と大きな温度変動、超高真空(地球の1000兆分の1の圧力・酸素濃度)、流星物質衝突の危険性などのいくつかの問題をクリアする必要があります。

また、人間が他の惑星や月に長期滞在する場合、自分たちが生活する・身を守るための住居が必要です。

住居を作る資材を地球から調達しようとすると、約1 kgの材料を地球の周りの軌道に輸送するには、約120億円の費用がかかるといわれています。

そのため、地球から持ち込む必要のある物資を最小限にし、月面にある資源を有効活用することで、コストを抑える必要があります。

ノルウェーのエーストフォール ユニバーシティ・カレッジの研究チームは、ジオポリマーセメントを3Dプリンタのノズルから押し出し複数の層を積み重ねることによって、緻密で初期強度の高い壁を安定して作ることに成功した。

研究成果は、2020年2月20日付で Journal of Cleaner Production に掲載されました。

ScienceDirect


おしっこが人類の未来を救う??

くだらないアイデアのように聞こえますが、ちゃんと機能するんです!!


ジオポリマー技術 × 3Dプリンティング手法。その問題点とは??

これまでに、月面材料を利用して現場建設用のセメント・コンクリートを製造することがいくつか提案されています。

最近は家庭用の3Dプリンターが普及してきたため身近に感じられるようになりましたが、建物など大きなものでも直接成形できる大規模3Dプリンティング技術の研究開発が現在進んでいます。

また、焼かずに化学反応で粒子同士をつなげて固める“ジオポリマー”という材料は、カルシウム成分の少ないセラミックス粒子で固めるため、セメントの致命的な劣化原因の1つであるとされている成分の溶出が少なく、次世代のコンクリート代替材料として近年注目されています。


しろくま先生
しろくま先生

あのピラミッドにもこのジオポリマーに似た構造を持つ材料が使われていたんだよ。

ペン兄さん
ペン兄さん

なるほど、4500年以上前から知られている知恵でもあったんですね。


現実的には、このジオポリマー材料技術を3Dプリンティング手法と組み合わせることになります。

ジオポリマーインクをプリンターで射出し、成形した後に素早く固まることで構造物を得ます。

ただしこの時に、いくつかの作製条件が必要となります。

  1. 押し出し時、プリンターノズルが目詰まりしない程度にジオポリマーインクの流動性が高いこと。また、硬化が開始する前に十分に作業時間が稼げること。
  2. 印刷後に形状を維持できる程度には粘性が高い(または硬化が始まる)こと。
  3. 高い初期コンクリート強度を示すこと。


ジオポリマーは、セラミックス粒子をアルカリ性の化学試薬で溶かした後、溶液に溶けだした成分同士が化学反応を起こしゲル化することにより固まります。

この時ゲル化の速度が速すぎると、粘度が高いためプリントしにくくなることはもちろん、3Dプリンターの溶液タンク内にセットするだけでも作業が大変になります。

そのため、混合物中に水を追加することによりわざと粘性をさげることがあるのですが、地上とは環境が異なり水は使用に限りがあるためこの方法は現実的ではありません。

また、作製時に多くの水を含ませてしまうと、乾燥させる際にもともと水が存在していた箇所が隙間として残ってしまうために機械的強度が低下してしまいます。

地球上では、減水剤と呼ばれる化学物質をジオポリマー原料溶液に加えると、セラミックス粒子間で互いに滑りやすくなるために水を入れなくても十分に作業性を向上させることができます。

しかし、ほとんどの高性能減水剤は有機化合物でありもちろん月にも不足しているうえ、これらの高性能減水剤を月のジオポリマーに利用するには、やはり地球からの輸送に多大なコストがかかってしまうのです。

月で簡単に入手でき、少ない水で作業性を向上させることができる化学混合物(減水剤)を見つけることは月面基地建設を進めていくうえで非常に有益です。

月で何が利用できますか?

なんと、宇宙飛行士自身の「おしっこ」を使ってこの問題を解決できるというのです。


それでもまだ、数百億かけて地球から材料を運びますか・・・?

研究チームは、実はジオポリマー分野では新規参入者だった。

研究者らは以前、プラスチック混合物の粘度を下げるために尿素を使用していました。

尿素は分子間の水素結合を切断することで摩擦を減らし、分子が互いにすべりやすくなるために混合物の粘度を下げることができます。

しかし、セメントを注型する際に粘度を下げるために尿素を使用した例はこれまでにありませんでした。

人間の尿には約9.3〜23.3 g / Lの尿素が含まれていることが知られています。

尿素は水に次いで尿中に豊富な成分であるため、人がいればどこでも簡単に入手できます。

水を地球から運んだり、新たに宇宙ステーションで作ったりする必要すらありません。

そこで、尿素がセメント作製時の減水剤として適用できるか、実際に試してみる価値が十分にあると考えたのです。

尿素を使った新しい高性能減水剤、誕生。

今回、月表面に存在する砂中に豊富に含まれる成分である二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを原料に月模擬砂を配合し、ジオポリマーを作製しました。

今回使用する尿素は、実際の尿から蒸留されたものではなく、化学薬品供給会社から購入した粉末尿素を使用し水と混合しました。

ジオポリマー作製時に、一般的に使用されている2種類の高性能減水剤(ナフタレン系 および ポリカルボン酸塩系)、および高性能減水剤を含まない対照混合物 と比較しています。

尿素やナフタレンを減衰剤として添加した場合、割れのない(もしくは少ない)滑らかな表面をもつ成形体をつくることができました。

また、ほぼ安定した形状を維持しながら、混合直後​​の荷重に十分耐えることができたそうです。

さらに、尿素を3%添加したサンプルは、無添加の場合と比較して固まるまでに要する時間を引き延ばすことができたことから、遅延剤としても機能することがわかりました。

3Dプリントで注型する際は、固まるまでの時間が長くなるほどノズルが詰まりにくくなるといったメリットがあります。

これにより尿素入りの減水材は作業性が向上するため、強度低下の原因となる気孔は生じにくいことも微構造観察より示されました。

以上のように尿素は一般的に使用されているナフタレン系の高性能減水剤に匹敵する性能を持つことが明らかになりました。

Credit by S. Pilehvar (first author, Ostfold University College)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0959652619340478?via%3Dihub


将来の宇宙飛行士は、自分の尿と月の砂を原料に使用して、自分たちの住居を作ることが可能になるでしょう。

月面リゾートに格安で行ける日も、そう遠くはないかもしれません。

参考資料

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