・香港城市大学 王教授らの研究チームは、高いエネルギー変換効率を可能にする液滴を使った新しい形態の発電機を開発した。
・わずか2,3滴の雨粒で140Vを超える電圧を生み出すことが可能(小さなLEDライトを一度に100個点灯できる電力に相当、従来技術の数千倍の性能)である。
・相対湿度が低下しても発電の効率に影響を与えないことが示されるとともに、雨水と海水の両方を使用して発電することができることも実証された。
・雨滴からの電力でこれまで石油や原子力などで生み出していたエネルギーを補うことができれば、エネルギー危機を解決するための再生可能エネルギー開発を飛躍的に促進することができる。
~この記事のキーワード~
雨滴発電、再生可能エネルギー、接触摩擦、帯電
雨から電気を効率的に生成するデバイスが発明される

傘があなたの電話を充電できるとしたら?
雨などの天気の悪い日は気分が落ち込んでしまう人も多いかもしれません。
雨で発電をしようという試みはこれまでにいくつもありました。
しかし、ここで紹介するのは、そんな中でも最高に効率的なやり方かもしれません。
香港城市大学(CityU)機械工学科の生物医学工学者である王 鑽开(ワン・ズアンカイ)教授らの率いる研究チームは、最近、高いエネルギー変換効率を可能にする新しい形態の液滴ベースの発電機を開発しました。
瞬時電力密度は、これまで報告されてきた似たような構造のデバイスと比較して数千倍に増加しました。
研究成果は、2020年2月5日付で世界で最も権威のある学術雑誌のひとつである「Nature」誌に掲載されています。

水循環を活用して雨から電気を高効率で作り出すことができれば、エネルギー危機を解決するための再生可能エネルギー利用の画期的な方法のひとつになるかもしれません。
雨粒発電?!

再生可能エネルギーというと何を想像しますか??
パッと思いつつくのは、太陽光・風力・潮力・水力・地熱などではないでしょうか。
実は、降ってくる雨で発電する技術が近年活発に研究されているのを知っていましたか?
ただ、雨粒のエネルギーを電気に変える方法は、満ち潮や川の流れからエネルギーを得るよりもずっと難しいとされてきました。
静電気の発生―接触摩擦帯電
下敷きで頭をこすって離すと、あら不思議。髪の毛が逆立ちます。
普通の物体はプラスとマイナスの電気をほぼ同じ量持っていて、電気的には中性になっています。
しかし、静電気を帯びた物体はプラスかマイナスのどちらかの電気が過剰になっていて、この状態が長く保たれています。この「物体が持つ電気」は、よく「電荷」という言葉で表現されます。
特に、金属と比較して電流を流さないようなプラスチックなどの絶縁体物質は、他の物体に触れるとプラスもしくはマイナスの電荷が移動して出ていくためにすぐに過剰の電荷が“たまって”いきます。
(ただ、金属であれ、絶縁体であれ、基本的には2つの異なった物体が互いに触れ合うと、一方はプラスに、もう片方はマイナスに帯電し、表面が離れると“静電気”として現れます。)
一度表面に発生した電荷は、再び何かと接触しない限りなかなか移動しない(逃げることができない)ため、長い間静電気を持った状態を維持します。

雨滴発電の問題点
摩擦電気効果に基づく従来の液滴エネルギー発生器は、液滴が表面に衝突したときに、接触帯電および静電誘導によって誘導される電気を利用していました。
逆に言えば、表面に発生する電荷を利用しているため、液滴との接触面積でその性能が決まってしまいます。
そのため、これまでの雨力発電技術では、小さな水滴で大量の電力を作り出すことはできませんでした。
たったの2,3滴でLED100個分の電力?!すごい液滴発電新技術
香港市立大学の研究者チームが、少しの雨でも電力を得ることができる可能性があると発表したのです。
15cmの高さから100マイクロリットル(1万分の1リットル)の水滴を落とすと、140Vを超える電圧を発生させることが可能であることが明らかになりました。
一滴が40マイクロリットルとすると、たったの2,3滴でそれだけのエネルギーを生み出せるので、いかにこの技術が画期的かわかりますね。
これだけの電圧があれば小さなLEDライトを一度に100個点灯させることができます。
研究チームの戦略
研究チームが水滴の落下を利用する発電機(DEG)に施した改良点のひとつは、電極にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を採用したことでした。
PTFEというと聞き馴染みがないかもしれませんが、“テフロン“と聞くとわかる人もいると思います。
お鍋の加工に使われるお馴染みのテフロンは、”準永久”の電荷をもつ(電荷保持状態が長持ちする)素材です。
また、先ほどの帯電のしやすさを比較した図からもわかるように、テフロンはかなり帯電が起きやすい物質であることが想像できますね。
今回開発されたDEGデバイスは、①アルミニウム電極 と ②PTFEの膜が堆積されたインジウムスズ酸化物(ITO)電極で構成されています。
ITOはガラスの透明性を活かしたまま表面に電気を通す透明導電膜で、タッチパネルなどに使われているごく一般的に使用されている材料です。
ここで、PTFE / ITO電極は、電荷を“生み出す”、“ためる”、“放出する”の3役をこなします。
~雨滴で電気が生まれるまで~
1.PTFE膜に15㎝の高さから水滴がポツポツと絶え間なく当たることで高密度の表面荷電が徐々に蓄積していき、これは飽和状態に至るまで続きます。(これは降り続く雨にも有効な技術)
2.一方、落下する水滴がPTFE / ITO表面に広がると、水滴は2つの電極(アルミニウム電極とPTFE / ITO電極)を橋渡しして接続することで電気的な閉回路を作り出します。
3.PTFEに蓄積していたすべての電荷が完全に放出されて、電流が生成されます。(この時に初めて電流が流れる)
4.結果として、瞬時電力密度とエネルギー変換効率の両方がはるかに高くなります。

この瞬間的な電力密度の増加は、水滴自身の運動エネルギーが変換されたことによるものです。
落下する水滴が持つ運動エネルギーは重力によるものであり、追加でエネルギーを与える必要がありません。
また、相対湿度が低下しても発電の効率に影響を与えないことが示されるとともに、雨水と海水の両方を使用して発電することができることも実証されました。
その瞬時電力密度は最大で約50W / m2に達する可能性があり、これまで報告されている似たような構造のデバイスの数千倍の性能を持っていることになります。
研究チームは、2年の歳月をかけてようやくエネルギー変換効率を飛躍的に改善することに成功しました。
どんなことに応用されるの??
理論上、この技法は、船体の外側、水筒の内側、あるいは傘の表面など水が固体表面に当たるところであったらどこでも応用することができます。
この技術の意義は落下する雨粒の量に対して発生する電力の量が格段に増えたことです。
つまり、発電機が落下水滴から得たエネルギーを電気に変換する効率が大幅に良くなったということです。
電気エネルギー変換の効率が大幅に向上:世界の持続可能性を促進

地球の表面の約70%は水で覆われているため、その一部でも私たちの使えるエネルギーに活用できれば、太陽光発電や風力発電に加えて世界のエネルギー危機への取り組みに役立つはずです。
水力発電そのものは古くから存在していますが、波や潮汐、さらには雨滴から得られる運動エネルギーを電気エネルギーへ変換する効率は、現在のテクノロジーをもってしてもそれほど高くありません。
今回、よく知られている物理現象を改めて見直すことで、たった数滴の水で多くの再生可能エネルギーを生み出すことのできる非常に効率的な発電機が開発されました。
雨滴からの電力でこれまで石油や原子力などで生み出していたエネルギーを補うことができれば、世界の持続可能な開発を飛躍的に促進することができるでしょう。
技術にはまだまだ克服すべき問題点(電極の腐食など)が残っていますが、5年以内に大規模な概念実証ができることを望んでいる、と王教授は述べています。
参考資料
準備中・・・