産総研、CO2と砂から機能性プラスチック原料を無限に作り出せる技術を開発

環境

・産総研率いる研究チームは、CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成する触媒技術を開発した。

水を副生しない反応プロセスで、触媒を長寿命化させより高い反応効率が実現できることが明らかになった。

・既往技術との組み合わせるにより、CO2と砂という実質的に無尽蔵ともいえる資源から有用性のある化学物質原料を製造できる。

・CO2を炭素資源として再利用するカーボンリサイクル社会への貢献に期待


~この記事のキーワード~

カーボンリサイクル, CO2, プラスチック, 触媒反応

二酸化炭素と砂を使って無限に高機能プラスチック原料を作り出す技術!

Credit: 経産省 資源エネルギー庁 長官官房 カーボンリサイクル室

化石燃料の利用に伴う二酸化炭素(CO2)排出を大幅に削減していくため、CO2を炭素資源として回収・再利用し、さまざまな有用製品として活用する「カーボンリサイクル」に向けた技術開発が重要視されています。

CO2の化学品への利用例として、ポリウレタンやポリカーボネートといった「含酸素化合物(酸素原子を含む化合物)」が想定されています。(経産省 資源エネルギー庁「カーボンリサイクル技術ロードマップ(2019年6月)」)

また、CO2と組み合わせて反応させる原料には低コスト・低環境負荷で何度も繰り返し使えることが求められ、高効率な合成を実現する触媒開発の需要もともに高まっています。

(国研)産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 深谷 訓久 研究チーム長(ヘテロ原子化学チーム)、崔 準哲 研究チーム長(触媒固定化設計チーム)らの率いる研究チームは、東ソー(株)と共同で、CO2とケイ素化合物を原料として含酸素化合物で有用化学品として知られる「ジエチルカーボネート」を効率的に合成する新たな触媒反応を見いだしました。

この反応は水を副生しないため、触媒が長寿命化させることでより高い反応効率が実現できることがわかっています。

さらに、今回の技術と同チームがこれまでに開発していた技術を組み合わせることによって、CO2と砂という実質的に無尽蔵ともいえる資源から有用性のある化学物質原料を製造できるため、CO2を炭素資源として再利用するカーボンリサイクル社会実現に一歩近づきます。

本研究成果は、2020年11月24日に ChemSusChem 誌のオンライン速報版で公開されました。

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産総研の挑戦。~砂とCO2で有用な炭素化合物原料を作るまでの道のり~

「ジエチルカーボネート」合成。既存の製造手法の問題点とは??

「ジエチルカーボネート」は、ポリカーボネートなどの原料のほか、リチウムイオン電池の電解液、塗料や接着剤用の溶媒として幅広く活用されている有用化学品です。

◆「ポリカーボネート」ってなに?
透明性あるとともに製造コストが低く、熱や衝撃に強いため、CD・DVDの表面、パソコン・スマートフォン本体のフレーム、航空機や鉄道車両の窓、医療機器、建築材料、スーツケース、サングラスや眼鏡、防弾ガラスの材料など幅広く用いられています。耐衝撃性は一般的なガラスの250倍以上といわれています。

これまで、炭素資源として再生可能資源であるCO2とエタノールを原料として、ジエチルカーボネートを合成する反応の研究開発が広く行われてきました。

しかし、目的物であるジエチルカーボネートと同時に水が副生成物として生じてしまうため、せっかく合成で得られたジエチルカーボネートと水が反応してしまい原料に戻ってしまう反応が進行することが問題となっていました。

また、化学反応の効率を上げるために使用している触媒が水と反応して分解されてしまうため、高効率合成が難しいという問題がありました。

とにかく、合成で起こる化学反応には、すごくが邪魔な存在なんです。

そこで、産総研の研究チームは、化学反応過程で水を一切発生させないような方法を考え出しました。

そのキーワードは、「テトラアルコキシシラン」です。

「テトラアルコキシシラン」ってなんだ??

テトラアルコキシシランは、セラミックスや電子デバイス用の保護膜・絶縁膜の原料として利用されています。

また、電気・電子、自動車、化粧品、建築・土木など幅広い産業分野で使用されているシリコーンをはじめとするさまざまな有機ケイ素材料の原料としても有望視されています。

◆「シリコーン」ってなに?
オイル、グリース、ゴム、樹脂などの形態をとり、熱や化学薬品に対する耐性が高い、水をはじく、電気を流さない、などの優れた特性を持っている。

今回の研究では、テトラアルコキシシランの1種である、テトラエトキシシラン(TEOS)に注目しています。

現在、TEOSの製造では中間原料として金属ケイ素(Si)を経由する必要があります。

これには大量の電気エネルギーを用いて高温でケイ石から酸素原子を取り除く(還元反応を起こす)必要があるため、エネルギー消費量が多いことやコストが高くなってしまうことが課題となっていました。

◆「シリカ」ってなに?
シリカ(二酸化ケイ素、SiO2とは、砂の主成分であり、ガラスやセメントの原料としても使われる。地殻内にはシリカが大量に含まれており、地球の表層の約6割がシリカを含む鉱物(石英)によって構成されている。生体内・人体にも微量ながら含まれる。
生物の中には、二酸化ケイ素の形でガラス質の骨格や殻を形成するものがあり、一部のシダ植物、イネ科の植物などに多く含まれ、地中からケイ素成分を吸収・蓄積する性質がある。
水溶性のシリカは人体にも微量ながら含まれており、免疫力に影響を与えたり、唾液による歯垢清掃、肌の保湿、骨や髪、爪、コラーゲンの再生・構築・補強・維持を手助けしている。ミネラルウォーターや健康食品としても市販されているのを見たことがあるのでは??

また、TEOSは非常に水と反応しやすく、せっかく合成してできたTEOSが分解してしまいシリカとアルコールが生成してしまうため、その反応が起こると最終的に得られるTEOSの量が少なくなってしまうといった問題もありました。

そのため、コストの低いシリカ原料から直接合成する技術の開発が望まれているものの、その技術的難易度の高さから、半世紀以上に渡って、金属ケイ素を経由したプロセスで工業的な生産が行われています。

産総研は、シリカを多く含み安価で豊富に存在する、砂や植物燃焼灰、産業副産物などのケイ素資源をアルコールと反応させることにより、短時間に高効率でTEOSを直接製造できる技術開発に成功しています。

産総研:砂や灰などからケイ素化学の基幹原料を高効率に直接合成

この反応では、触媒(水酸化カリウム)と 汎用されている無機物系脱水剤(モレキュラーシーブ)を用いてエタノールと反応させると、高い収率でTEOSへと再生できることが明らかになっています。

◆「水酸化カリウム」ってなに?
カリウムの水酸化物で、強い塩基性を示す。シリカの分解すなわちケイ素-酸素結合の切断を促進する働きがある
◆「モレキュラーシーブ」ってなに?
結晶性の無機物質であるゼオライトの一種。多孔質の構造を持ち、空孔にさまざまな分子を吸着することができる。特に水を強く吸着する為、有機溶媒や各種ガスの乾燥に使用されている。反応によって生成した水を吸着して反応系から取り除き、反応が逆方向に戻ってしまうことを防いでくれる。また、固体状であるため、反応後には容易に回収して、加熱や減圧で再生して繰り返し使用できるため、製造プロセスの低コスト化に対しても有利。


もみ殻、砂、産業副産物など安価なケイ素源からケイ素化学基幹原料を製造。 Credit: (国研)産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター


さて、TEOSの合成過程では、水が一切生じない化学反応を用いることができることが分かりました。

本題のジエチルカーボネート合成ですが、CO2分子の結合を切ってエトキシ基(-EtO)を2つくっつけてやることによりジエチルカーボネートEtO(C=O)OEtを作ります。

これまで皆さんと勉強してきたTEOS(Si(OEt)4)ですが、なんと分子構造中にエトキシ基(-EtO)を4つももっています。

TEOSがジエチルカーボネート合成にすごく使えそうな気がしてきませんか・・・?

CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成

Credit: (国研)産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター

産総研が今回開発した技術では、ジエチルカーボネートを合成する際にCO2と組み合わせる原料としてエタノールではなく、水を副生しないTEOSを用いる方法を考案しています。

反応の副生成物はTEOS分子が2つつながった「ジシロキサン」という物質だけで、水は全く副生しないことがこの反応の特徴だそうです。また反応の副生成物であるジシロキサンは、触媒(水酸化カリウム)と脱水剤(モレキュラーシーブ)を用いてエタノールと反応させることで、高い収率でTEOSへと再生できることも明らかになりました。

さらにこの反応に有効な触媒を見いだして、製造プロセスの低コスト化を実現しうる合成方法を開発することに成功したそうです。

また触媒寿命の評価を目的として触媒の添加量を30分の1に低減して既存の触媒との比較実験を行ったところ、収率は低下してしまうものの触媒の寿命が10倍近くまで向上したことがわかりました。

◆「収率」ってなに?
化学反応において、理論上得られる生成物の量に対して、実際に得られた量の割合。


再生可能な原料を利用した持続可能触媒プロセス  Credit: (国研)産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター

今回、CO2とTEOSを資源とした触媒反応によって、廃棄物のない持続可能なプロセスによるジエチルカーボネートの合成が可能になりました。

今回の一連の研究である「砂からTEOSを合成する技術」と「TEOSから有用化学品の原料を合成する技術」を組み合わせることで、CO2と砂という実質的に無尽蔵ともいえる資源から価値のある物質を製造する可能性が示されました。

参考資料

産総研 研究成果記事「CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成 -水が副生しない新しい反応で高効率な合成を実現-」(2020/11/27掲載)

産総研:CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成


産総研 研究成果記事「砂や灰などからケイ素化学の基幹原料を高効率に直接合成-化学原料を安価で豊富な砂から製造する新たな可能性-」(2016/10/25)

産総研:砂や灰などからケイ素化学の基幹原料を高効率に直接合成
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